田ノ浦の海の埋め立て免許判断巡る住民訴訟

中国電力が上関原発建設計画を目論む田ノ浦の埋立免許の延長申請の判断を、山口県知事が先送りしたのは無効であると山口県民45人が訴訟を起こしました。
2月19日、第二回の口頭弁論が行われ、一人の原告が陳述書を読み上げました。


陳 述 書

山口地方裁判所 御中
2014(平成26)年2月19日
原告 上里恵子
中国電力による上関原発計画のための公有水面埋立工事竣功期間伸長申請に対し、山口県知事がもし免許されるならば、2013年7月施行の「新規制基準」に抵触する可能性のあることについて,下記のとおり意見を陳述いたします。

1.2013年10月5日に、中国電力から山口県に提出された「埋立工事竣功期間伸長申請書」について意見陳述をさせて頂きます。中電が同申請をした根拠については、申請への県の対応の不当性を糺して原告らが行った監査請求に対し、県が回答した中で明らかにされています。それは「重要電源開発地点の指定に何ら変わりがない」からというものです。本日はこの中電の主張する根拠に対して、その不当性について述べさせていただきます。「重要電源開発地点の指定」とは、2001年に上関原発計画が「電源開発基本計画に組み入れられた」ことを、2005年の制度変更により引き継いだものです。「電源開発基本計画組み入れ」は、電源開発調整審議会を踏襲して行われたものです。電源開発調整審議会に掛けるには前提があり、それは「漁業補償が済んでいること」「環境影響評価が済んでいること」「用地取得が済んでいること」「地元知事の同意があること」となっています。この前提要件、上関原発計画の場合、「知事の同意」以外は要件を満たしていない中で「組み入れ」が行われています。電源開発調整審議会の目的は、当該地に原発を計画する「受け入れ態勢が整っているか」を問うものだと思われますが、当初から不備のあるまま「電源開発基本計画に組み入れられた」ことに注目しなければなりません。殊に用地の取得は「組み入れ」の3年半後であり、「環境影響評価」の調査には 大きな欠落があり、現在も欠落したままです。欠落の内容は、埋め立てて無くなる所の磯・砂浜での動・植物プランクトン、卵、稚仔の調査が無いというものです。このことは、県も中電も認めています。漁業補償が済んでいない状態にあることも県は認めています。この状態で、「電源開発基本計画組み入れ」が決まり、これが実質的な「上関原子力発電所設置決定」として取り扱われることになってゆくのです。2008年、知事が公有水面の埋立を免許するに際し「土地利用計画が確定しており」と免許の理由を述べることが出来たのもこのためでした。しかしながら,まだ「設置許可申請書」は、関係省庁に提出さえ、されていませんでした。
2.さて、知事の埋立免許に示した条件「埋立着工後3年以内に竣功」の期日が迫ってきました。2012年10月6日です。その前日のことでした。中電が「埋立工事竣功期間伸長申請書」を出したのは。この中で、『「重要電源開発地点の指定に何ら変わりがない」から埋立続行を認めよ』と求めている訳です。東京電力福島第一原発の事故により、上関原発計画の埋立工事は中断し、期限内の竣功が叶わなかった事情の下でした。ここで、考えなければいけないこと。現在既設の原発も全て止まっています。再稼働を希望する原発については、すべて規制委員会により稼働の条件が整っているかが問われ、検査を申請しています。上関原発計画はどうでしょうか。ほんとうに「重要電源開発地点の指定に何ら変わりがない」と言っていいのでしょうか。「電源開発基本計画に組み入れられた」時、計画地の地質・地盤状況は解かってはいませんでした。地質・地盤状況が分からないまま、原発を作るための準備である埋立工事をすることは、福島原発における大事故を経験したこの日本で 絶対に許されることではありません。
3.本件原発予定地の地質・地盤状況は、2009年12月に提出された「設置許可申請書」を基に、翌年5月から専門委員の審査に入り、5回の審査を経て、調査不足も指摘され、追加調査が行われていましたが、原発事故のため中断した状態です。つまり、今以て、地盤状況の詳細は不明であり、逆に審査の途中で判ってきた地盤状況は非常に悪いものであると指摘されています。本件原発敷地に存在する破砕帯は、45度の傾きを持ち、厚さは厚い所で8mあり、「すべり面」になることが危惧され、地盤不良を証明するように、中電はボーリングの1本を差し替えています。1号炉炉心部でです。この事実自体は中電も認めています。本件計画地周辺の活断層は、中央構造線に平行に走るものが多数存在し、その地質構造は複雑で「断層群」区分け作業に用いる「産業総合研究所のルールが当てはめられない」とまで審査に当たる専門委員に言われています。「重要電源開発地点の指定に何ら変わりがない」と埋立続行を希望するなど、もっての外の状態です。上関原発計画は、地盤状況が分からなくても設置を決定し、悪い地盤に合わせて、土木技術で原発を設置しようとしてきたこれまでの、この国の原発行政を暴いていると言えるのかも知れません。豆腐の上の原発と言われる軟弱地盤の上の柏崎刈羽原発、地下水に取り囲まれて、周りに井戸を掘らなければならなかった福島第一原発 震源域のド真ん中の浜岡原発、中央構造線直近の伊方原発しかりです。
4.ここで、大切なことを一つ付け加えておきたいと思います。原発そのものについてです。核からエネルギーを取り出すことには、放射能の環境への放出を伴います。厳密に管理する必要があるために、電力会社は「五重の壁」で対応しているといいます。しかし、一旦使用済になった燃料棒は原発サイト、格納容器の外、つまり第四の壁の外で溜まり続けています。エネルギーを取り出す度、ほとんどそのままの重さで放射能レベルが1億倍の毒物と化すのが原発のエネルギーであることを知っておかなければなりません。原発はエネルギー問題ではなく、環境問題であり、「放射能毒 問題」として私たちが引き受けることを要求されているのだと、知らされなくてはなりません。選択を迫られるのは、放射能毒を引き受ける覚悟についてのはずなのです。決してエネルギー問題など ではないのです。
5.以上述べましたように,本件上関原発計画はずさんに進められており,周辺住民にとって極めて危険な存在であるとともに、シビアアクシデントに際しての避難手段は無きに等しい当該地周辺の離島・半島に多数の住民の暮らしがあります。また,「瀬戸内海環境保全特別措置法」第十三条で知事に特別な配慮を義務付けられた、瀬戸内海に本件原発予定地はあり、過酷事故が発生した時には、閉鎖海域でのこととなり、その生態系の破壊など被害は甚大で取り返しのつかないものになります。このような経過から二井元知事が「延長申請は認めない」ことを表明し,山本前知事がこれを受け継ぐと知事選で公約していたのは誠に当然のことでした。政権が変わるや突然この公約は無きがごとく、延長申請への回答を先送りにする 知事の本件措置には、まったく正義がありません。また、当該地への原発設置は公有水面埋立法第四条一、二、三項に抵触する可能性もあります。このような事由から私どもは本件住民訴訟を提起しております。したがって,貴裁判所においては山口県民の切なる願いを認めていただき、共に貴重な自然を尊重し、いのちを守って頂きたく意見を陳述するものです。
以上

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